体の各細胞同士のコミュニケーションツールにはさまざまな物質があり、細胞間を飛び交っています。それらには、エクソソーム(Exosome;膜小胞(エキソソームとも呼ぶ))やインターロイキンなどのタンパク質があり、その中でエクソソームに含まれている“マイクロRNA”についてお伝えします。
エクソソームは、様々な細胞から分泌される情報伝達物質で、その中にはマイクロRNA以外に核酸、各種酵素、ヒートショックプロテインなどの各種タンパク質などを内臓しています。
エクソソームは私たちの体の中に100兆個以上流れていると考えられています。そこに内蔵されている一つにマイクロRNAがあります。
マイクロRNAは、一般に20~25mer(マー;1merは1塩基対)という短い長さのRNA(リボ核酸)であり、その種類は2000以上が確認されています。マイクロRNAの指標はmRNA(メッセンジャーRNA)であり、その遺伝子発現を調節しています。
つまり、遺伝子の本体であるDNAに書かれているタンパク質の情報がmRNAに転写され、それが核から細胞質に出て行って、そのmRNAにマイクロRNAが結合することによって、タンパク質への転写が抑制されるようになっています。
また、マイクロRNAの設計図がコードされているのは、DNAの中で一般のタンパク質の設計図がコードされていない部分であり、以前は“ジャンクDNA”と呼ばれていた領域で、生命の奥深さを本当に感じます。
そして、マイクロRNAは遺伝子の転写後の発現調節に関与していて、DNAのメチル化やヒストンのメチル化やアセチル化による転写前の発現調節も含めて、エピジェネティックにタンパク質の発現を調節しています。このような多重の調節機能も生命の営みの深遠さと言えるでしょう。
さて、このマイクロRNAはこれまでの研究により、特定のがん細胞により発現量が増加しているものと、減少しているものがあることが分かっています。そして、ただ一つのマイクロRNAが標的にしているmRNAの種類はかなり多く、例えばmiR520dでは、なんと8000種類以上と推定されています。ヒトの遺伝子の総数が21,787個しかないことを考え合わせると、一つのmRNAを複数のマイクロRNAで制御し合って調節している様は、つくづく生命現象の複雑さと奥深さに驚嘆せざるを得ません。
そして、このmiR520dはマウスでの導入実験で、がん細胞を正常幹細胞に変換するということをしています。
このことは、がん幹細胞の遺伝子は正常であり、計画的にがん細胞を生み出していたことを示唆しています。さらに、がん細胞は環境改善により正常になることをも示唆するものです。
がんは細胞環境の悪化によるものであり、その改善によりがんは正常にもどるのです。
一方で、今はやりのエクソソームを多く含む幹細胞培養上清液の効果には不確実性がぬぐいえません。エクソソームの中にどのようなマイクロRNAがどれだけ入っているかが不確定です。どこかにがんがある場合には、がんを増強して悪化させる可能性もあります。
そして、価格もかなり高額です。
ですから、美容などある目的で不自然なものを入れるのはいかがなものでしょう。